「M&A」と「会社売買」の違い

M&Aとは、企業合併や買収を指す言葉で、mergers and acquisitions(合併と買収)の略です。狭義には合併及び買収なのですが、業務提携などを含める場合もあります。
 一方、会社売買とは、現在では明確に定義された言葉にはなっていないようです。ただ、M&A事業者のなかで、1.全株式の譲渡を基本として、2.事業の継承は行わず、3.比較的低額、といった特徴を持つ案件を主に取り扱う事業者が会社売買という用語を用いてきたという経緯はありました。
 会社売買を法的に特徴付けるのは、株式譲渡を基本としていることなのですが、より実態に即した区分は、事業継承を行うか否かという部分でした。ほとんどのM&Aコンサルファームは事業継承を伴わない案件は取り扱わないため、上記のごく少数の事業者との間に、ある種の棲み分けがなされていたという状況がその背景にはあります。
 ところが近年は、こうした事業者間の垣根がなくなりつつあります。これは、ひとつには、事業継承を伴わないM&Aを取り扱わない事業者も会社売買の用語を用いるようになってきたこと、もうひとつには、事業継承を行うか否かという区分が出来なくなりつつあるということが、その理由として挙げられます。
 1~2年前程度からの傾向と思われますが、ネット上でM&A事業者が会社売買の用語を用いる例が増えて来ました。これは、M&Aに対する社会的認知が進んだことにより、従来はM&Aに関心の無かった中小・零細企業もM&Aに目を向けるようになってきたことが、要因のひとつになっているものと思われます。こうした新たな顧客層を取り込むために、株式譲渡をベースとする低額案件を会社売買と再定義するということが、いくつかのM&Aコンサルファームの戦略として採用されたのではないかと推測できます。
 一方、中小・零細企業がM&Aのプレーヤーとして参入してきた結果、事業継承を行うか否かで二分できない案件も増えて来ました。従業員・顧客・固定資産・その他の無形資産など、どういった経営資源を引き継ぐのかは無数の組み合わせがあり、事業継承する、しないの間にさまざまな段階が生ずるようになってきているのです。例えば、代表者一人で営んでいる小さな不動産会社のM&Aについて考えてみましょう。株式譲受人が全株式を引き受け、代表者に就任、一方、前代表者は代表権の無い取締役として従来の不動産事業に従事。こうした形ならば事業継承が行われたとみてよいでしょう。一方、株式譲渡と共に代表者は交代し、前代表者は退職、店舗も新たな場所で開店し、営業開始。こうなると事業継承したとはいえません。では、前代表者は退職するが店舗は継続使用する場合は? あるいは店舗は移転し代表者も交代するが、前代表者は非常勤顧問に就任する場合は? 特に零細企業のM&Aの場合は、このような事業継承をしたともしていないとも言い難い案件が数多くあるため、事業継承の有無をM&Aの形態区分のメルクマールとすることは、現状では困難であるといえます。
 したがって、会社売買とは株式譲渡を取引のベースとするM&Aである、というのが広義の定義ではありますが、狭義の定義は定まっていないというのが現状です。

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